完全失踪日記

Escape from another.

芥川賞。古川真人「背高泡立草」を読んだ話

難しい言葉はない。 思わせぶりな表現もない。 ひたすら、人間を書いている。 人間が自由を求め、あがく様が浮かぶ。 刈取っても刈取っても、草は繁茂することを止めない。 自由を阻むように。 誰もが、セイタカアワダチソウのごとく、未知の世界で根をはる…

宇宙物理学者=SF小説家。「ユニバース2.0」を読んだ話

宇宙物理学者の仕事は、想像と検証作業である。 本質的には、SF作家と同じだ。 宇宙とは何なのか?宇宙を支配する法則はあるのか? 全ては、想像することから始まる。 想像が像を結ばなければ、次に進めない。 想像した姿が、相対性理論、量子論、天体観測結…

「私」は存在するのか? マルクス・ガブリエル「「私」は脳ではない」を読んだ話

脳神経科学は、意識を物質に完全還元できると想定する。 つまり、意識は脳内の物理化学反応である、と考えている。 ガブリエルは、この考えを神経中心主義とし、本書で激しく非難する。 人間の尊厳を著しく侵害する思想だと。 ガブリエルは、人間の自由意志…

古市憲寿は芥川賞作家になるのか?「奈落」を読んでみた話

古市憲寿の小説を読むのは3作目だ。 どれも、文体が異なる。 器用なのだろう。 どれも、孤独を書いている。 不器用なのだろう。 この世界は、この人の世は、こんなもんだろう。 と、飽き飽きしているだろう。 辛そうだ。

「十二単をまとう女」を眺めながら、江戸川乱歩賞「ノアールをまとう女」を読んだ話

江戸川乱歩賞受賞作は、小説としての完成度が高く、期待して読んだ。 「ノワール」は、フランス語で「黒 noir」。 そして、「まとう」は、「着る」ではない。 「まとわりつく」により近い意味である。 つまり、「黒がまとわりつく女」ということになる。 「…

勉強とは自己破壊である。千葉雅也「勉強の哲学」を読んだ話

「勉強」とは「知る」ことである。 「知る」ことは、自己の「殻」を破壊する。 だが、「殻」の外には、また「殻」があることを「知っている」。 この状態を「勉強」と称している。 「知る」ことは楽しい。 ワクワクする。 知った瞬間、新たな世界が開かれ、…

嵐の後には静かで怖い物語。「むらさきのスカートの女」を読んだ話

芥川賞「むらさきのスカートの女」を読んだ。 「言葉を紡ぐ」という表現がある。 一語一語、丹念に紡いである。 完成したのは、ムラサキとキイロの織物。 ムラサキの非日常とキイロい日常。 ムラサキの狂気とキイロい正気。 最後に、ムラサキとキイロは交差…

想像が世界だ。「なめらかな世界と、その敵」を読んだ話

SF要素がある青春小説である。 なめらかな世界とは、 無限にある世界の一つで、その世界は脆弱だが可能性に満ちた世界に見えた。 不可能性だらけの私の世界に、まだ可能性は残っているだろうか。 隠居生活者にとっては痛い話ばかりだった。

平成の人間失格。島田雅彦「僕が異端だった頃」を読んだ話

書き出しはこうだ。 「誰にでも少年時代はあるが、誰もがそれに呪われている。」 今さら自伝かよ、と思いつつ、 平成版人間失格を期待していた。 少年時代、島田雅彦は異端ではなかった。 異端になりたい、異端でありたい、異端であろうとする少年であった。…

いまさら青春かよ。 村上春樹訳「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(ライ麦畑でつかまえて)を読んだ話

20歳の頃一度読んだ。 どこが青春小説の名作か、と思った。 面白くもなんともない、記憶しかない。 今さら青春もないだろうが、 村上春樹の翻訳が読みたかったのだ。 主人公は、自分を囲む世界の殆どすべてを否定しながら、逃げ回る。 やり場のない思いを剥…

30年の遺恨。中井英夫「虚無への供物」をやっと読めた話

高校生の頃、ミステリー小説に凝っていた。 狂っていた、といってもいい。 風呂の中にさえ、本を持ち込んでいた。 その趣向は、大学に行っても暫くは続いたが、 読書の幅は多岐にわたるようになり、ミステリーから距離を置くようになった。 当時、日本ミステ…

装丁と題名に惑わされ。三浦しをん「愛なき世界」を読んだ話

美しい装丁の本だ。 図書館で読むには気恥ずかしい。 この外観で、「愛なき世界」とすると、中身は? 読む前に内容を想像してみたが、全てが裏切られた。 おかげで、楽しく読めた。 読み終えて、改めて本を見る。 「まあ、そうだよな。三浦しをんだし。」と…

川上未映子「夏物語」を読んだ話

発売は明日らしい。 文学界3月・4月号に載っていたので、 一足早く?読む。 登場する殆どが女。皆、強く、逞しい。 男は、存在を認められていない。 男は、彼女たちの行動が理解できないし、 彼女たちは、理解して欲しいとも願っていない。 お手上げである…

村上春樹の短編新作を読んだ話

週に2回は、図書館へ行くことにしている。 その日の気分で本を選び、読みたい分だけ読む。 本を選ぶのも楽しみの一つだ。 村上春樹の新作が目に入ったので読むことに。 2作も読めるとは贅沢。 内容はともかく、確かに「村上春樹」だった。

今さら、角田光代「愛がなんだ」を読んだ話

映画「愛がなんだ」を観たのは2カ月も前。 今も映画はロングランを続けている。 正直、多くの人が観る映画とは思えなかった。 今さらだが、原作に興味が沸いた。 映画をみた後、原作を読むのは珍しい。 映画の場面を思い浮かべながら、読み進める。 映像の…

国会図書館の書庫は地下に増築され続けている、これは本当の話?

国立国会図書館に行った。 国内で出版された全ての本があるという。 それだけで、図書館好きにとって憧れの図書館。 身分証を持って、利用手続きをする。 簡単な書類に、住所・氏名などを記載し、を出すだけだ。 20分くらいすると、受付番号が呼ばれ、カード…

森見登美彦「熱帯」を読み終えた話

2日連続で図書館に行くことになる。 図書館の人間模様は愉快だが、これはまた別の機会に。 この本「熱帯」が、「熱帯」の中に出てくる本「熱帯」なのか? はどうでもよく、 多分この問いよりも重要なのは、 「熱帯」の中に出てくる森見登美彦が、この本「熱…

古市憲寿「平成くん、さようなら」をやっと読んだ話

読んだ後、何か古いな、と思ってしまった。 発表が去年9月、令和になってから読む本ではなかったのだろう。 こういう本を読むと、今を生きることの息苦しさを、改めて思い知らされる。 他者との関わり方、世界との関わり方、 小説の主人公のようには、到底い…

石原慎太郎は死に怯えている? 小説「老惨」があまりに痛々しい話

村上春樹の最新短編「三つの短い話」を読んだ。 正直、何?と思った。 いつものことだが、謎を謎のまま放置。 放置の仕方も工夫がない。 これで本当にいいの? 表紙に「村上春樹」と大きく入れれば、雑誌は売れるのだろうか? 落胆し、本を書棚に返そうと思…

本を貸出さない図書館で、伊坂幸太郎「フーガはユーガ」を読んだ話

本を貸出さない図書館がある。 ということは、人気のある新刊も図書館内にあって、自由に閲覧できる。 市民図書館だと半年待ちの本も、その日の先着順で読み放題である。 別の本を読むつもりで出かけたが、それは誰かが読んでいるのだろう、なかった。 そこ…

古市憲寿「百の夜は跳ねて」を市民プールで泳ぎながら考えた話

週に一度は、図書館とプールの組合せで過ごすことにした。 午前2時間、図書館で本を読み、その後1時間くらい市民プールで泳ぐ。 脳と体とをバランスよく使いたい。 今日は、気になっていた、古市憲寿「百の夜は跳ねて」を読んだ。 肩書が多様な彼がどのよ…

街歩きに便利なので東京の地図を買った話

東京の地図を買った。持ち運びできる文庫版にした。 スマホの地図アプリは便利だが、紙の地図を眺めるのが好きだ。 見ているだけで、そこにいる気分になれる。 しばらくは、地図を片手に知らない東京の街を散策するつもりだ。 変容していく都市を歩いて巡る…

「お金2.0」を読んで、働き続けるのがつらいと思った理由がわかった話

「お金2.0」は、お金の概念がバージョンアップする、とう意味ではない。 「脱資本主義」「脱お金至上主義」ということだった。 お金中心の価値観(お金がたくさん=幸せ)は終わり、お金は本来の役割(交換手段)に戻っていく。 お金を稼ぐためだけにに働き…

「続 横道世之介」を読んだら、映画「横道世之介」を見たくなった話

久しぶりの雨降りで、外に出られず。 気になっていた小説「続 横道世之介」を読むことに。 「横道世之介」を知ったのは、映画「横道世之介」。 主人公、「世之介」を演じたのは、高良健吾。 今になって思えば、小説の世之介と比べ、かっこよすぎなので、少々…

1年位前に図書館に予約していた本がやっと来たので、すぐに読んだ話

市立図書館の予約システムを利用しています。 WEB上で予約しておくと、希望する図書館に届けておいてくれる、便利なサービスです。 この本を予約したのは1年以上前、どうしてこの本を予約したのかさえ忘れています。 本を手にして思ったのは、「センスのな…