象の残像。象がいなくなった動物園の話。
この動物園には、お気に入りの場所がある。
そこは、象がいなくなった象舎。
象は3年程前に死んだ。
象舎は象が不在のまま放置されている。
象舎の一角には、象の写真、象への感謝の言葉と品々が置かれる。
象舎の前を通る人の多くは、その場所へ行く。
象舎の前には、たくさんのベンチ椅子が置かれている。
かつては多くの人がそこに座って、のんびり象を眺めていただろう。
象のいない今、そのベンチに留まる人はいない。
見るべき象がいないからだ。
そのベンチに座って象のいない象の庭を眺める。
象はいないが、まだ象の存在感は残っている。
人の脳は見たいものを見る。
象の残像を感じて、自分の存在を確認してみる。
この世界に自分は残存しているのか?
そもそも、像ですらはないのかもしれない。