私は同和ではない。(失踪13日目)
「同和ではない」
親から何度となく言われた言葉だ。
昔々、祖父と祖母は駆け落ちし、とある村に居ついた。
そこが同和地区であった。
戦後、一家は同和地区から転居した。
「同和ではない」これは、「生まれは同和ではない」ということなのだろう。
このことについて、親と話したことはない。
だが、私が子供の頃、同和を差別する慣習は普通にあった。
今も残っているだろう。
気づかないだけで、差別を受けていたのかもしれない。
東京で働くようになって、自分の生まれに負い目を感じなくなった。
東京では、皆、他人には無関心だったからだ。
誰も自分に関心を持たない。
実に、心地よかった。
清々していた。
今となっては、
自分の生まれが同和かどうかなど、どうでもいい。
他者と関わらなければ、意識することもない。
だが、私は失踪する。
同和であることから失踪するのではない。
ただ、失踪するのだ。
これは、私が失踪する理由ではない。