お金は命に代えられない。(失踪18日目)
私の父は肺炎で死んだ。
78歳だった。
こう書けば、ありがちな最期に見える。
だが、この2行には長い行間がある。
貧しい者の最期は悲しく、厳しい。
父は、痴呆だった。
痴呆症を発症し2年経過した頃、肺がんが発覚した。
手術することが困難な場所に腫瘍があったため、手術を諦めた。
いや、そうではない。
延命可能な治療法はあったが、保険適用外なので、積極的な治療をやめたのだ。
私は、その選択に同意した。
その後、癌は全身に転移していった。
本人にはその事実を伝えなかった。
痴呆が進み、すぐに物事を忘れるので、告知したとしてもすぐに忘れただろう。
余命が1年位だといわれていた頃、肺炎になった。
ここでも、積極的な治療を止めた。
自然に任せた。
いや、それは違う。
死ぬに任せた、のだ。
見殺しにした、のだ。
父は7日後に死んだ。
貧しいとは、「お金は命にかえられない」ということである。
貧しい者は、最期まで惨めだ。
私は惨めな死から逃走することはできまい。