歯は口ほどにものを言う。(失踪19日目)
私の歯はぼろぼろである。
抜けたり、虫歯だったり、まともな歯はほとんどない。
硬いものが噛めない。
不自由である。
食べる楽しみが感じられない。
不幸である。
何故、こうなったのか?
歯を磨かなかったからか?
それもあったかもしれない。
一番の原因は・・・
歯医者に行くべきときに行けなかったからだ。
歯医者に行く金がなかったのだ。
「歯が痛い」と親に訴えても、「塩をなめてろ」と言われた。
確かに、歯医者に行かずとも、歯痛は治まった。
虫歯が進行したせいだ。
人間の歯は丈夫で、なかなか完全には崩壊しない。
就職試験の最中、前歯が虫歯なのが恥ずかしくて、瞬間接着剤で補修したこともあった。
ようよう歯医者にいったのは、就職した後だ。
私の歯を見て歯医者はずいぶん驚いたものだ。
歯は実に雄弁だ。
私の幼少期と青年期の履歴を語りつくす。
私は、私の貧しさを隠せない。
歯は二度と生え変わらない。
私の歯は、私が死んでも私の貧しさを語り続ける。