旅の話(その3:松代大本営地下壕)「聖から終へ」
旅の終わりは、いつも寂しい。
最後に訪れたのは、松代大本営地下壕。
太平洋戦争末期、軍が本土決戦の最終拠点として建設した施設。
碁盤の目のように掘り抜かれ、総延長は約10キロ。
旅の行きつく先に相応しい場所。
平日の昼間、入場者は誰もいない。
入口で係員の説明を受け、施設へと入る。
地面、壁、天井とも平らな部分はどこにもない。
軍は、なりふり構わずに作ったのだろう。
見るに無様な穴倉だ。
独り、薄暗闇を進む。
少しだけ歩いて、後ろを振り返る。
入口の光は既に見えない。
補強のための赤い鉄骨が神社の鳥居に見える。
この道は、どこに行きつくか?
終わりの施設の終点へと向かう。
左に90度直角に曲がり、また、進む。
立ち止まると、物音ひとつしない。
幽寂だが、いびつな壁面には掘った人々の念が残る。
ここは静かではない。
そう感じて、ぞっとする。
再び歩けば、「じゃりじゃり」と響き、恐怖心が緩和する。
足早に、留まることなく、行き着くまで行き、逃げるように引き返した。
往復15分程度だったが、意識は遼遠へ往来したよう感じた。
果たして、穴から出た自分は、前の自分と同じなのか?
自信がもてない。