失踪者は大阪西成を目指す。(失踪31日目)
新今宮から眺め観るアベノハルカスが好きだ。
目線は地べたの西成、見上げると遠く彼方に霞むハルカス。
歩けば10分ほどの距離なのに、やけに遠く感じる。
天王寺に行き着くには急な坂道を登らねばならない。
その急峻な坂道には見えない分厚い壁がそこに立ちはだかる。
逃亡者の私にその壁を越える動機はない。
かつて、好んで西成の安宿に泊まった。
大阪に来ると大抵西成に宿をとった。
西成としては少し高めの1泊2,000円程度の宿。3畳一間、冷暖房、冷蔵庫付。
何故、西成のような場所に惹かれたのか?
その頃は分からなかった。
今になって分かる。
そこには、自分よりも貧しい人々が生きていたからだ。
それを体感することで、自身も何とか生きていこう、生きてゆけると、実感したかったのだ。
つまり、虚栄心を満足させるためだったのだ。
そう思う者はもう西成に来る資格はない。
あらゆることから失踪し、もっと自由にならねばならない。
次、ここに来る時はもっと自由になってから来よう。